アメリカ研究 第54号
トランプ政権の誕生以来、「フェイクニュース」、「ポストトゥルース」、「オルタナティヴ・ファクト」などといった言葉が日本でもすっかりおなじみになりました。当の大統領が記者会見で大手マスメディアの記者を面罵する光景もまたしかりです。誰もが自由に情報を発信できる現代の状況とあいまって、アメリカではマスメディアに対する不信感は上記の言葉やふるまいによって再生産され、それが現代のポピュリズムの興隆に一役買っていることはいうまでもありません。
ただし、権力がメディアを嫌うのは今に始まったことではなく、ペンタゴン・ペーパーズ問題やウォーターゲート事件からも明らかなように、メディアが第四の権力として権力の専横を批判し、腐敗を暴くからです。しかしながら、他方ではメディアが権力に迎合して数々のフレームアップのお先棒を担いできたことや、イエロージャーナリズムのように大衆を扇動してきたこともまた事実です。よく言われるように、「人は自分が得たいと思う情報だけを読む」ということが本当なのであれば、メディアが流す情報は時と場所を越えたアメリカの世論の映し鏡といってもいいでしょう。
そこで今回の特集では、アメリカのメディアから発信された情報が、国内、および国外において人々の意識や行動にいかなる影響を与えてきたのかということを考えてみたいと思います。ここでいうメディアとは、たとえば19世紀以前であれば新聞、政治パンフレット、あるいは講演録のような印刷媒体であり、20世紀以降であれば、これにラジオ、テレビ、映画のような視聴覚媒体が加わるでしょう。さらに現代であればSNSもこの範疇に入ります。これらの多様なメディアは、いかなる意図のもとに、いかなる情報を、いかなる層に向け発信したのでしょうか。そして、その情報はいかなる人々にいかに受け止められ、いかなる現象を引き起こしたのでしょうか。こうした問いは、結局は合衆国憲法で高らかに謳われた表現・出版・報道の自由の功罪を問うことになるでしょう。
座談会「トランプと移民問題」 …………………………………………………… 1
特集論文:「メディアと情報」
第一次大覚醒運動と18世紀印刷文化
――メソジストと人種 ………………………….. 増 井 志津代 … 21
活字メディアとしての『ドメスティック・エコノミー論』
………………………………………………………………… 石 塚 則 子 … 45
VOA「フォーラム」と科学技術広報外交
―冷戦ラジオはアメリカの科学をどう伝えたか―
………………………………………………………………… 土 屋 由 香 … 67
保守主義運動と政治献金革命:
1964年大統領選挙におけるダイレクトメール戦略
………………………………………………………………… 森 山 貴 仁 … 89
アメリカにおけるテレビ・ディベートの開拓と終焉?
―Firing Lineの遺産をめぐる再考― ……… 渡 辺 将 人 … 113
ソーシャルメディアが変えるアメリカ政治:
選挙と政策運営に注目して ………………………….. 前 嶋 和 弘 … 137
新聞4コマ漫画が描くアメリカ大統領
日本のマス・メディアに見るドナルド・トランプ像
に関する一分析 ………………………………………….. 水 野 剛 也 … 159
自由論文
「客間」と「書斎」
―空間表象に見るエマソンの家政学 …………… 冨 塚 亮 平 … 187
冷戦期アメリカの先住民政策と土地問題
―インディアン請求委員会とウェスタン・ショショーニ
………………………………………………………………… 内 田 綾 子 … 209
長文書評
Hideaki Kami, Diplomacy Meets Migration:
U.S. Relations with Cuba during the Cold War
………………………………………………………………… 上 村 直 樹 … 231
第53回年次大会報告 ………………………………………………………………… 239